第4回日独研究フォーラム小冊子作成に際し、録画した動画内容の全ての
文字起こし並びに校正を担当して下さった狩谷顧問から嬉しいお便りが昨日届きました。
アユ研の皆さま
私の勤務した駿河台大学では、埼玉新聞の「経世済民」というコラムに教授陣が
リレー形式でエッセイを寄稿しています。
このほど、執筆予定の教授が急病になったため、急遽私に執筆依頼があり、
パナマ運河の水不足について寄稿しました。ご笑覧いただければ幸いです。
狩谷求
2024年3月28日(木)/埼玉新聞朝刊に掲載/アユ総研 狩谷求顧問
水不足に泣くパナマ運河
COLUMN県内大学発
経世済民 667
駿河台大学 狩谷 求名誉教授
読者の中には、さいたま市緑区にある見沼通船掘に行かれた方も多いと思う。江戸時代中期に開通した運河であり、180年前以上も後に完成したパナマ運河と同じ機能を持った水門「閘門(こうもん)」を擁している。見沼新田を灌漑する東西の見沼代用水と、芝川をつないで舟を運航させるために掘られた見沼通船掘は、芝川との水位差3メートルを克服するため、一の関と二の関という二つの水門が設けられた。二つの水門に挟まれた閘室(こうしつ)の水量を上下させることによって舟を通過させた。
いま後輩格のパナマ運河が水不足に悩まされている。気候変動に起因するとみられる降雨量の減少で、昨年4月から運河の通航に隻数制限と喫水制限とがかかっている。一日36隻は通航できる運河が、現在30%減の24隻に制限され、超大型船は積み荷を減らしているパナ
マ運河の通貨に制限がかかると、米国、中国に次いで3番目の運河利用国である日本にとって、影響は少なくない。船はホーン岬など大回りしなくてはならず、時間もコストもかかり、回り回って身近な物価を押し上げる心配もある。
筆者は、駿河台大学の教壇に立つかなり以前、今から28年前、銀行の支店長としてパナマに滞在した。太平洋から大西洋側まで、小型船に乗ってパナマ運河を通り抜けたこともある。約80㌔、8時間の船旅だった。大西洋岸から、今来た運河の方向を振り返ると、大型船が丘の上に乗っているように見えたことを思い出す。
なぜ水不足が、パナマ運河の運航に支障を来すのか、お話してみたい。19世紀の後半、最初にパナマ運河の掘削に挑んだのは、スエズ運河の掘削に成功したフランス人のレセップスだった。目指したのはパナマ地峡の山を海面レベルまで掘り、スエズ運河のように海と海を直接つなぐ海面式運河だった。
しかし、岩山を掘削する難しさ、疫病のまん延、資金難もあって挫折する。運河建設に成功したアメリカが選択したのは、見沼通船掘でも使われた閘門式の運河だった。パナマ地峡の中央山岳部で川をせき止め巨大な人造湖を造った。人造湖の水面は海抜約26メートル。
太平洋側(あるいは大西洋側)から運河に入った船を、人造湖の水位まで押し上げるため、太平洋側および大西洋側にそれぞれ三つの閘門が設けられた。人造湖を航行した船は、三つの閘門を通過して、さながら「水の階段」を降りるように海面レベルに至る。
人造湖のある場所は熱帯雨林に囲まれ、パナマでも降雨量の多い地域だ。降雨量が減ると人造湖の水位が下がり航行に支障を来す。また、閘門のオペレーションにも膨大な水を使う。一隻の通航に必要な水は平均およそ2億リットル、オリンピック仕様のプール80個分に相当するという。
今年の雨期(5~11月)に、どれだけ人造湖の貯水量が回復するか、中長期的には、
新たな水源を確保するため、新しいダムの建設に踏み出せるか、取沙汰されているパナマ運河の昨今である。
2024年3月28日(木)/埼玉新聞朝刊
小冊子編集と同時進行で上記のような素晴らしいお仕事もなさっておられてたのですね。
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